7月の概要:大手調査3社がエージェンティックAIの「現実」を同時に示す

2025年7月は、Gartner・McKinsey・Deloitteの3大調査機関がほぼ同時にエージェンティックAIに関する大規模レポートを公開した月です。テーマは共通しています——「巨大な可能性」と「成熟度の低さ」のギャップです。

$4.4兆
AIがもたらす生産性向上の経済規模
第4位
Gartner 2026戦略テクノロジートレンドにおけるマルチエージェントシステムの順位
33%
2028年までにエージェンティックAIを搭載する企業ソフトウェアの割合(現在は1%未満)

注目動向1:Gartner 2026年トップ10戦略テクノロジートレンド

Gartnerは毎年の戦略テクノロジートレンドを発表し、2026年版ではAIを中心とした3つのテーマを設定しました(Gartner, 2025)。

テーマトレンド名エージェンティックAIとの関連性
The Architect#1 AI-Native開発プラットフォームエージェントが「開発されるもの」から「開発するもの」に移行
The Architect#2 AIスーパーコンピューティング大規模マルチエージェントの推論基盤
The Architect#3 機密コンピューティングエージェント間通信のセキュリティ基盤
The Synthesist#4 マルチエージェントシステム本レポートの中核——複数エージェント連携が前提に
The Synthesist#5 AIエグゼクティブ・コパイロット経営層の意思決定を支援するエージェント型AI
The Vanguard#6 フィジカルAI(ロボット・ドローン)デジタルからリアル世界へのエージェント拡張
The Vanguard#7 先制型サイバーセキュリティエージェントがリアクティブではなくプロアクティブに脅威を検知

最も注目すべきは、マルチエージェントシステムが第4位にランクインしたことです。Gartnerは2028年までに日常業務の意思決定の15%がエージェンティックAIによって自律的に行われると予測しています。単一のAIアシスタントではなく、複数のエージェントが協調して業務を遂行する「マルチエージェント前提」のアーキテクチャが標準になります。

注目動向2:McKinsey「Superagency」レポート

McKinseyは2025年の年次報告書「Superagency in the Workplace」を発表し、AIと人間の協働による「超人的な能力拡張(Superagency)」を提唱しました(McKinsey, 2025)。

主要なデータポイント

  • $4.4兆の生産性向上ポテンシャル
  • **92%**の企業がAI投資を今後3年間で拡大予定
  • しかし**1%**のみが「成熟した」AI展開を達成
  • **47%**のC-suite経営層がAI開発・リリースの速度に不満
  • **46%**が人材のスキルギャップを主要障壁に
  • 従業員は経営層の想定の3倍の頻度で生成AIを利用(実際13% vs 経営層の認識4%)
  • 5%以上の売上増を達成した企業はわずか19%
ポイント

McKinseyの核心的メッセージは「Superagencyとは人間を代替するものではなく、人間の能力を拡張するもの」です。2030年までに9,200万の職種が代替される一方、1億7,000万の新たな職種が生まれると予測されており、「AIを使って何ができるようになるか」が問われています。

Deloitteは「Agentic AI: Frameworks for autonomous enterprise」と題した章を含むTech Trends 2026を発表しました(Deloitte, 2025)。

自律性スペクトラムの3段階

Deloitteは企業がエージェントの自律性を段階的に拡大するフレームワークを提示しました:

  1. Augmentation(拡張)——AIが情報を整理・提案、最終判断は人間
  2. Automation(自動化)——定型業務をAIが自律実行、例外時のみ人間が介入
  3. True Autonomy(完全自律)——複雑な判断を含む業務全体をAIが遂行

企業の現在地

エージェンティックAIの進捗状況企業の割合
正式な戦略なし35%
戦略を策定中42%
オプションを探索中30%
パイロット実施中38%
導入準備完了14%
本番稼働中11%

注目すべき企業事例(Deloitte掲載)

  • トヨタ:物流追跡のAIエージェントで50〜100画面のメインフレーム操作を自動化
  • Dell:営業・サービス・サプライチェーン・エンジニアリングの4領域でPoC12件を推進、コスト・顧客満足度で2桁改善
  • HPE:CFO直下にAIエージェント「Alfred」を配置、4つのサブエージェントで業績レビューを自動化
  • Mapfre:保険金請求処理に「ハイブリッド・バイ・デザイン」でエージェント導入
  • Moderna:CHROとCDTOの統合ポジション(最高人材・デジタルテクノロジー責任者)を新設

経営層への示唆

今月の最重要メッセージは「投資意欲と成熟度の巨大なギャップ」です。McKinseyのデータが示すとおり、92%の企業がAI投資を拡大する計画ですが、成熟した展開を達成した企業はわずか1%です(McKinsey, 2025)。

アクションアイテム:

  1. Deloitteの自律性スペクトラム(3段階)で自社の現在地を評価する
  2. McKinseyの「Superagency」概念を基に、AIを「人を置き換える」ではなく「人を拡張する」方針で社内コミュニケーションを再設計する
  3. Gartnerの2026年トップ10を基に、来期のIT投資の優先順位を見直す

DX担当者への示唆

技術アクション:

  • Deloitteが示した企業事例(トヨタ・Dell・HPE・Moderna)のアーキテクチャを分析し、自社のユースケースに最も近いパターンを特定する
  • マルチエージェントシステムがGartner第4位にランクインしたことを踏まえ、単一エージェントでの成果が出ている領域を2つ以上のエージェント連携に拡張するPoCを計画する
  • 「エージェントウォッシング」(Deloitte)への警戒を持ち、ベンダー製品の真の自律性を検証するプロセスを規定する

まとめ:2025年7月の3つのテイクアウェイ

  1. 投資意欲と成熟度のギャップが最大の課題——92%が投資拡大なのに成熟企業は1%。「やるかどうか」ではなく「どうやるか」が決定的です。
  2. マルチエージェントが前提のアーキテクチャに——Gartner第4位、Deloitteの自律性スペクトラム、McKinseyのSuperagencyの3社が「単一エージェントの時代は終わり」と一致しています。
  3. ガバナンス設計が導入の前提条件に——42%が戦略策定中、エージェントにHR管理を適用する新概念が登場し、「まず作ってからセキュリティを考える」は通用しなくなりました。
注意

Deloitteは「エージェントウォッシング」への注意を喚起しています。ベンダーが従来型のオートメーションを「エージェンティックAI」と再ブランディングするケースが増えています。真のエージェンティックAIは自律的な判断・マルチステップの実行・環境適応能力を備えたものであり、ルールベースの自動化とは本質的に異なります(Deloitte, 2025)。

8月の注目ポイント

  • プロトコル標準化の進展——MCP(Model Context Protocol)、A2A(Agent-to-Agent)、ACP(Agent Communication Protocol)の主導権争い
  • 物理AIの実証実験——Gartnerの第6位トレンド「フィジカルAI」が工場・物流現場で試行開始
  • 日本市場のエージェンティック元年——製造業とサプライチェーンでの具体的導入事例が増加の見込み